森茉莉の好きだった作家

好きな作家の好きな本、はやっぱり読んでみたいと思うもの、

一時、森茉莉に夢中だった私は、森茉莉の読んだ本、も一生懸命さがしました。

大好きな「贅沢貧乏」にはおあつらえ向きに、茉莉の本棚に並んでいる本が列挙されていました。
（以下、青字は森茉莉の著作より引用）

シャアロック・ホームズ2冊、ロチのお菊さんとお梅さんの３度目の春

ロオダンバックはジョルジュ・ローデンバック、
死都ブリュージュは岩波文庫にあります。
ドオデはアルフォンス・ドーデ、Ｊａｃｋ（ジャック）は茉莉の長男と同じ名前、
この本は離婚以来会えなかった長男が大人になって再会したとき、教えてくれたものだそうです。
ドオデの作品は有名なのがいくつも翻訳されていますが、
ジャックは見つかりませんでした。
ピエエル・ルイはピエール・ルイス、フランス世紀末の作家。
「女と人形」は「女とパンタン」とも訳されます。
私の体に悪魔がいる、という題で角川文庫にありました。
「ナンフの黄昏」はギリシャ神話を題材にした、短編集です。
ロチはピエール・ロティ日本に滞在したこともあるフランスの作家。
お菊さんと・・は見つかりませんでした。
岩波の「氷島の漁夫」は好きです。

レニエ作「復讐」、誰だったかの「僧房夢」

オスカア・ワイルドはオスカー・ワイルド、サロメは有名ですね。
ジュニッツレルはウィーン世紀末の作家、「みれん」を鴎外が訳しています。
アルフォンス・ドオデ作とあるのは、フローベルの間違いです。
「聖ジュリアン」は鴎外が訳しています。
レニエはアンリ・ド・レニエ、復讐も鴎外が訳しています。
僧房夢はハウプトマン、これも鴎外訳であります。。

「偶然できた小説が、知らないうちに「恋愛三昧」や「僧房夢」の影響を受けていたのに、気がついて、
それからこれらの一連の好きな小説を、目標にしはじめたのである。
どれも読むたびに恍惚（うっとり）とする小説である。

さて、書名がわかって、探そうと思ってもなかなか大変。本の世界にもやっぱり栄枯盛衰はあって、

森茉莉が若いころ読んだであろう本は、今では絶版になっていたり、

当時は人気作家であった人たちも忘れ去られていたり。。

森茉莉と小説の出会いは、当然大好きなパッパ、森鴎外の翻訳が中心だったろうと思います。

鴎外の「独逸日記」をのぞいて、ほとんどが翻訳小説なのも興味深いと思います。

サロメ　　ワイルド　　　　　２０巻　復讐　レニエ　　１６巻、
フローベール「聖ジュリアン」16巻(すべて岩波書店の鴎外選集）

その影響の強さがうかがえます。

幼いときに父の本で覚えたゲエテ、シルレル、ストリンドベルヒ、シュニッツレル、
なぞの懐かしい名が読める。（記憶の絵より、本屋）

フランス滞在中に鴎外の死を知り、鴎外の思い出の地、ベルリンを訪ねた時のことです。

彼の地の本屋さんで、ずらりと並んで本棚の背表紙を眺めていたのです。

父の本。懐かしいパッパの思い出の本。茉莉はどんな思いでそれらの本をながめたのでしょうか？

懐かしい父の思い出が、父の訳した西洋の小説に集中してしまうのは、

フランス、ヨーロッパ体験、森茉莉の個人的嗜好も相俟って、当然のことのように思います。

鴎外の翻訳は１９世紀、森茉莉が青春時代をすごしたのは２０世紀の初め、

茉莉の好きな作家は１９世紀末から２０世紀初頭に集中しており、

この時期は小説にとっても恵まれた時代だったように思います。